わが国における肺癌死亡者数は1955年以降増加し続け、男性では1993年死因の第1位となり、2000年の死亡者数は1955年のそれよりも男性では5.9倍、女性で4.4倍と増加し、男女合わせて5万人以上に達している。その一方、現在でも発見された十数%が治癒するにすぎない状況にあり、その克服には、早期発見による外科的切除と、効果的な補助療法の確立が必要である。
術前化学療法は、(1) 微小転移を減少させ遠隔再発を減少させる(2) 原発巣を縮小させ手術を容易にする(3) 局所制御率を上げる(4) 治療効果が切除標本で判定可能である、といった利点を有する一方、(1) 合併症の増加(2) 術前治療非奏功例では切除のチャンスを逃す、といった欠点を有する。Roth(JNCI 86; 673-680,1994)やRosell(NEJM 330; 153-158,1994)が報告した第III相試験の結果では術前化学療法による生存率の改善が認められたが、これら報告は小規模(片群約30例)であり、手術単独群の予後不良 (MST 1年以内)等の問題点が指摘された。最近のI-IIIA期を対象とした第III相試験(J Clin Oncol 20; 247-253, 2002)において、術前化学療法はI-II期症例では有効だが、IIIA期症例では無効との報告があった。 現在、JMTOでは少量分割投与により副作用軽減と用量増加の可能性を期待した“IIIA期N2非小細胞肺癌に対する術前導入療法としてのパクリタキセルとカルボプラチンの少量分割投与の有効性の検討”が進行中である。
一方、術後補助化学療法に関しては従来のプラチナ製剤を含むレジメでは、それらの大半で治療の有効性を認めていない。2003年のASCOにおいてIALT (International Adjuvant Lung Cancer Trial) より発表されたシスプラチンを含んだ非小細胞肺癌に対する術後補助療法は、化学療法を含まない対象群に比べて有意に良好な結果が報告されているが、対象症例や放射線治療の有無など背景因子の不均一性と治療の安全性の問題点が指摘されている。術後補助療法においてその標的は微小転移病巣であり、外科侵襲による宿主の免疫力低下の可能性を考慮すれば、プラチナ製剤を含むレジメをはじめとする非手術例に推奨される化学療法と術後補助療法が同一でよいのかと考え、我々は非小細胞肺癌術後補助化学療法としてのUFTの有用性について検討し、その臨床的意義を報告してきた(J Clin Oncol 14: 1048-1054, 1996, Eur J Cardio-thorac Surg 15: 438-443, 1999)。2003年のASCOにおけるJLCRG (The Japan Lung Cancer Research Group)の報告でもI期肺腺癌に対するUFTの有用性が報告され、2003例を対象にしたメタアナリシス対象研究においても、5年生存率、7年生存率において有意にUFT投与群は、対象群に比べ予後良好であった(P=0.011, P=0.001)。現在JMTOでは病理病期II期、IIIA期に対する“非小細胞肺癌完全切除例に対する経口テガフール・ウラシル配合製剤を用いた術後補助化学療法の有効性に関する無作為化第III相試験”が進行中である。
今後の展望として、進行例には代謝阻害剤を加えることによりテガフールの抗腫瘍効果を高めたS-1の肺癌に関する有用性や、Gefitinibの安全性とその有用性を検討する必要があると考える。さらには、術後補助療法の効果予測因子としてのバイオマーカーの検討や患者の個性に応じた薬剤の選択といった集学的な治療が必要と考える。
高度進行・再発食道癌に対する免疫細胞療法
久留米大学医学部 集学治療センター
山名 秀明
進行・再発食道癌の治療においては放射線治療、化学療法、外科的切除術を主体とした集学的治療により大きな効果がみられるようになってきた。しかし、一旦化学療法や放射線治療が無効になると、患者の予後はきわめて不良である。このような食道癌患者に対して残されている治療方法として、免疫療法がある。
われわれは以前より癌集学的治療としての癌免疫療法の役割について模索し,食道癌腫瘍浸潤リンパ球や末梢血単核球から自己癌細胞特異的CTL cloneが樹立されることを基礎的研究により証明し、これらの研究成果を基に自己活性化リンパ球を癌局所に投与する免疫細胞療法を開発した。
まず高度進行・再発食道癌患者11例を対象として、自己活性化免疫細胞療法の第I/?相試験を実施し、4例に腫瘍縮小効果(CR1例、PR3例)を認めた。そこで更に、第?相試験として現在までに食道癌患者14例に同治療を試みたが、その効果はPR1例、SD2例で満足できるものではない。しかし、これら症例のなかでSD(病変増悪傾向+)もしくはPDとなった患者に後治療として化学療法/放射線治療を併用することで腫瘍縮小効果が認めた症例を経験した。一方、免疫細胞療法を継続中に抗腫瘍免疫活性の減弱をしばしば経験するが、その原因を基礎的に検討した。その結果、CD4+CD25+ T cellの割合が治療経過につれて増加し、TGF-β産生量も増大して免疫活性低下の一因と考えられた。そこで、抗IL-2α鎖モノクローナル抗体を培養液中に添加するとCD4+CD25+ T cell増加が抑制され、NK活性低下とTGF-β産生の抑制効果が認められた。
自己腫瘍刺戟による活性化免疫細胞局所移入療法は、たとえ化学/放射線治療が無効となってもある程度の抗腫瘍効果は期待される。また、免疫化学療法を併用することでその効果は更に増大する可能性が示唆され、CD4+CD25+ T cell増加抑制を目的とした抗IL-2α鎖モノクローナル抗体の併用によって更に有効性が高まるものと推測される。今後は、これら薬剤との併用療法に関する臨床試験を実施し、その安全性と抗腫瘍効果について検証しなければならないと考えている。
現状
乳癌領域における臨床試験の歴史は古く、米国においてはNational Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project (NSABP)が1958年よりprospective randomized trialを開始し、現在までにNSABP B-35までのプロトコールを行なっている。米国ではこの他、Southwest Oncology Group (SWOG), Eastern Clinical Oncology Group (ECOG)などが、欧州においてはEuropean Organization for Research and Treatment of Cancer (EORTC)が有名で、種々のトライアルを行なっている。わが国においては、1982年から行なわれたAdjuvant Chemo-endocrine Therapy for Breast Cancer (ACETBC)トライアルが大規模無作為化比較試験としては最初のものであろう。ACETBC1次トライアルは約6000例を集積し、その後も幾つかトライアルが行なわれ、1000例を超えるトライアルも7つ行なわれ、それらの結果が順次発表されている。
わが国における乳癌領域のトライアルの特徴と問題点
わが国における乳癌領域のトライアルは、経口抗癌剤を中心に行われてきた特徴がある。また、乳癌自体の特徴として比較的若年の女性に多く、ホルモン療法を含む種々の治療に対して反応し、予後は良いことが挙げられる。治験は進行・再発乳癌を対象にしたpIIの結果により承認されるが、臨床試験の場合には進行・再発乳癌は背景が種々で行ないにくいことが多い。それに対し、術後補助療法は背景因子が均質なことが多く、薬剤の効果を見やすい利点がある。しかし、乳癌のような予後の良い癌で治療効果を見るためには1000例以上の症例を必要とすることが多く、登録、データ管理などが容易でない。近年では、術前化学療法は、術後化学療法に比して予後は同等との結果が出ており、かつ奏効率で評価できるため時間がかからないなどの利点が多いことが認識されている。病理学的CRが予後のsarrogate end pointになることも認知されてきており、臨床試験の組み立てに大きく貢献している。現在の乳癌領域における臨床上の関心領域は、新薬の併用効果、predictive factor、dose dense chemotherapy、薬剤のcross-over effectなどである。
具体的な臨床試験の例示
以上のような問題点を検証するための臨床試験の例として、1)LH-RH agonist+AI vs LH-RH agonist+TAM、2)CAF*6→閉経前→LH-RH agonist+TAM vs TAM、3)高齢者に対するTAM vs TAM/UFT、4)NAT; CEF→TXT/Cape±Herceptin、5)TPによるカペシタビン投与などが考えられる。
胃癌に対する術前化学療法の第?相試験
名古屋大学医学部大学院 病態制御外科
小寺 泰弘
わが国における進行胃癌の外科治療は既に確立されており,拡大術式の延命効果は頭打ちである。この上治療成績の向上を図るためには集学的治療が必要である。術前化学療法は代表的な戦略のひとつであるが、その効果を証明するには、生存率を主たる,そして術後合併症率,治癒切除率等を副次的なendpointとする第?相試験が必要であるため、これを提案する。MAGIC trial (MRC)で既にECF療法による無再発生存期間の有意な延長が報告されているが、これは胃癌治療の根幹をなす外科治療の標準術式が異なる国での結果であるため,わが国での追試が必要である。術前化学療法の意義はlocal controlと遠隔転移再発の防止(すでに存在する微小転移の制御)にあるとされる。Local controlには放射線療法の併用が有用とされるが,わが国では外科的手技(リンパ節郭清)がlocal controlに寄与していると思われ,再発形式の中で局所再発の占める割合は思いのほか少ない。また、胃癌原発巣に照射を行なうことはわが国では一般的ではない。したがって、本試験では遠隔転移再発の防止に重きをおき、放射線療法の併用は避けることとした。対象症例は画像上リンパ節転移を有し(N1 ̄N3),遠隔転移を認めない(M0)進行胃癌(T2 ̄T4)とする。使用レジメンには、高い奏功率が要求されるが、JCOGの第?相試験(CDDP/S−1)殿重複を避けるために、OGSGで第I/?相試験が終了しているCPT-11/S-1 (CPT-11 80 mg/m2 days 1 and 15, S-1 80mg/m2 bid, days 1 ̄21, every 28 days)とする。CPT-11/S-1の奏功率は50%程度とCDDP/S-1に劣るが,外来治療が可能な点が利点であり、Pilot studyでpathological CRが出ている点,PD率が低い点も魅力である。MAGIC trialで明らかなように,術前化学療法と同一の治療を術後補助化学療法として行なう場合の認容性は低い。したがって、微小転移の根絶を徹底する目的で、奏功度がNC以上であることを前提に施行回数を4コース程度に増やすことを提案する。手術単独群との第?相試験に先駆けて,治療完遂率,治療関連死率(5%を上限とする)等をendpointとする第?相試験が必要である。